随筆的な、考え的な。

人のコミュニケーションには2種類の「正しさ」がある

人のコミュニケーションには、2種類の「正しさ」が存在すると思う。

ひとつは、「伝達内容についての正しさ」だ。

もうひとつは、「円滑な人間関係のための正しさ」。

「伝達内容についての正しさ」って?

「伝達内容についての正しさ」は、文字通り、伝えようとしている内容の正しさだ。

たとえば、「1+1 = 2 だよ」という発言と「1+1 = 2 だよ、このバーーーーーーーカ」という発言は、「伝達内容についての正しさ」で言えば、どちらも「正しい」。だって実際、1+1=2 なのだから。

僕たちが一般的に「正しい」「正しくない」で想像するのは、こちらの正しさ(伝達内容についての正しさ)だろう。

「円滑な人間関係のための正しさ」って?

では、「円滑な人間関係のための正しさ」というのは何か?

それは、伝え方全般に関わる「正しさ」だと思う。ここでは、伝えようとしているメッセージの内容は問わない。

「円滑な人間関係のための正しさ」で言えば、たとえば「1+1 = 2 だよ」という発言と「1+1 = 300 だよ」という発言は、(「1+1 = 2 だよ、このバーーーーーーーカ」に比べれば)どちらも「正しい」。

次のように言い換えてもいいかもしれない。

「円滑な人間関係のための正しさ」の言い換え
  • 礼儀
  • 口調(厳しい・優しい)
  • コミュ力
  • 伝え方   など

それは「正しさ」ではないのでは?

「円滑な人間関係のための正しさ」という名前にはちょっと疑問をもつかもしれない。

それでもなぜ「正しさ」という言葉にこだわるかというと、僕たちは「伝え方が間違っている」「言い方が悪い」などと日常的に言うからだ。

つまり、日常的な感覚では、伝え方においても「正しさ」という尺度を使う。

もしコミュニケーションをプレゼントの贈り合いだと考えたら、プレゼントのラッピング部分=「円滑な人間関係のための正しさ」、プレゼントの中身=「伝達内容についての正しさ」といえる。

2つの正しさと、4種類のコミュニケーション

この2つの正しさに基づいてコミュニケーションを整理すると、次の表のようになる。

円滑な人間関係のための正しさ伝達内容についての正しさどんなメッセージになるか
優しい口調のアドバイス(「1+1=2だよ」)
「確かにそうかもしれない」
耳障りの良い嘘(「1+1=3だよ」)
「すごく優しくいい感じのことを言ってくれてるけど、ただの嘘だよね?」
厳しい口調のアドバイス(「1+1=2だよ、このバーーカ」)
「言っていることはわかるんだけど、ああいう言い方をしなくてもよくない?」
単なる逆ギレ・暴言・嘘(「1+1=3だよ、このバーーカ」)
「言ってることもおかしいし、言い方もひどい。到底受け入れられない」

飲み会で考える、2つの正しさのジレンマ

個人的には、「円滑な人間関係のための正しさ」も「伝達内容についての正しさ」も兼ね備えたコミュニケーションを取りたいとは思う。

つまり、さっきの表で言えば「優しい口調のアドバイス」型のメッセージを伝えていきたい、とは思う。

しかし、ここにはジレンマがあるように思う。

たとえば、飲み会を想像してみよう。その飲み会で、Aさんが「女性は頭が悪い」と言った。

さて、我々はどうするべきだろう?

①優しい口調のアドバイス=やんわり指摘する

「でも、女性は全員頭が悪いわけじゃない気がしますよ」とか、「男性にも頭が悪い人っていますよね」というふうに、”やんわり指摘”することも考えられる。

それによって、Aさんとの軋轢を防げるかもしれない。また、「あいつはちょっと気難しい人だ」という評価を避けられるかもしれない。そして聞き入れてもらえやすくなる……かもしれない。

でも、我々の発言が真剣には受け取られず、結局は女性蔑視的な話題で盛り上がってしまうかもしれない。なぜなら、発言の「強度」がないから。

②耳障りの良い嘘=同調する・何も言わない

あるいは、「そうですよね」と同調することもできる。もしくは、沈黙することもできる。

こちらでもやはり人間関係は保全できるだろう。何なら、気が合う人だと思われるかもしれない。

ただこの場合、女性蔑視への異議申し立てはまったくなされない。しかも自分は内容的に正しくないことも言ってしまっている。

③厳しい口調のアドバイス=直球に指摘する

「それはおかしい。Aさんはミソジニストで、間違っている」、と直球に指摘することも考えられる。

それによってAさんとの人間関係が悪くなったり、場の空気がすこし凍ったり、我々は冗談のわからない人と思われるかもしれない。相手に反発心を生み、むしろ女性蔑視的な立場をより強く堅持させてしまうかもしれない。でも、我々はあくまで正しいことを言っている。

また、我々の発言が「強い」からこそ、Aさんをひるませて、女性蔑視的な発言がさらに盛り上がることを防げるし、Aさんの偏った見方を変えるきっかけになるかもしれない。

④単なる逆ギレ・暴言・嘘=狂人になる

急にその場で阿波おどりを始めることも考えられる。

……いや、考えられない。

「円滑な人間関係のための正しさ」も「伝達内容についての正しさ」もない発言や行為をしても意味がないので、検討しなくてもいいだろう。

「円滑な人間関係のための正しさ」の難しさ

上の飲み会で見たように、基本的には「伝達内容についての正しさ」を確保した上で、「円滑な人間関係のための正しさ」をどう扱うかが問題になる場面が多いだろう。

……そしてありきたりの結論だが、人を説得するにあたって、「円滑な人間関係のための正しさ」は使いようなのではないだろうか。

たとえば、相手が全く聞き入れるつもりがないなら、「円滑な人間関係のための正しさ」を重視していては事態が変わらないだろう(礼儀ただしく「差別をやめてください」と言い続けても、相手が聞き入れてくれないかもしれない)。

他方で、「円滑な人間関係のための正しさ」を過剰に求めればただの(自己)トーンポリーシング tone-policingになる。つまり、発言の内容ではなく、それが発せられた口調や論調を非難する、ということになりかねない。

でもまた、「円滑な人間関係のための正しさ」を軽視することも難点がある。たとえば、優しく言っていたら聞き入れてくれたかもしれない相手を、”間違った立場”に固定させるかもしれない。また、相手を公的にshameするのも、相手を「社会的破城槌」social battering ramとして道具化するようで僕はすこし抵抗を感じてしまう。

相手を、社会変革のための突破道具として使う問題

(「伝達内容についての正しさ」を確保している前提で)「円滑な人間関係のための正しさ」も最初は確保して、相手や状況が変わる見込みがなければ、「円滑な人間関係のための正しさ」を犠牲にする、という戦略が良いのかもしれない。

……まあ、それは性善説と、”ある程度の猶予”(今すぐ殺されそうなときに、「円滑な人間関係のための正しさ」を求めている場合ではないだろう)があることが前提なのだけれど……。

うーーーーーーーーーーーーーん。難しい。

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