※この記事は、「「ゲイ 治す 方法」で検索する君へ。①」という記事に大幅に追記する形で更新されたものです。
当初に一部加筆修正を加えたものは「じぶん入門にあたっての「心構え」」という章で読めます。
- まずは「頭」で自分を受け入れる(概念や議論を知る・本を読む)
- 「心」で自分を受け入れる(娯楽を楽しむ・仲間と遊ぶ)
- 他の人にも受け入れられる(仲間を探す・カミングアウトする)
「自分はゲイかもしれない」
「ゲイを治す方法はないのかな」
「ゲイは治るのかな……」
この記事にたどり着いたあなたは、きっとそう思っているでしょう。
結論から言うと、次のような答えになります。
それでも、「ゲイは治さないとおかしい気がする。ダメな気がする」と思う人は多いでしょう。
この「じぶん入門ガイド」はそんな人のために書きました。ここに書いてあるのは、「自分がゲイでもおかしくないんだ、ダメじゃないんだ」と思えるようになるための「手順」です。
焦らず、二歩歩いて一歩下がるくらいのペースで、「じぶん入門」を始めていきましょう。
「じぶん入門ガイド」を読む前に
全てを鵜呑みにしないで
このガイドは、僕の経験(と見聞きした話)をもとに書いています。そのため、東京(関東近辺)の事情に偏っているかもしれません。できるだけ多くの人に使えるようにしたつもりですが、やっぱり限界はあると思います。
全てを鵜呑みにはせず、「ひとつのやり方」とお考えください。
「順番」は人それぞれ
このガイドは概ね「時系列」に沿って書いていますが、あくまで「僕が経験した順番」です。人によってステップが前後したり、スキップされたりすることがあると思います。
それで良いのです。みんな人それぞれなのですから。
じぶん入門にあたっての「心構え」
さて、前置きはここらへんにして、早速「じぶん入門ガイド」に入っていきましょう。
君は君でいい
- じぶんは『ホモ』でも『オネエ』でも『こっち系の人』なんかでもない。
- 自己暗示をかけ続ければ、いつかの朝に起きたときストレートになれる。
そう思えば思うほど、逆にホモ・オネエ・こっち系の人になっていくような気がするし、何度起きようと、男にしか興味が持てない。そんなじぶんに、絶望するかもしれません。
しかし、次のことははっきりわかっていてほしいです。
- ゲイであること、あるいは異性愛者ではないことは、間違ったことなんかではない
- 君は笑われるべきじゃない
- いま感じている絶望や悲しみは、あなたのせいではない
君は独りじゃない
この時代・この国に生まれた多くのゲイの人は、同じ「絶望」を知っています。
「もしかしたら、AVとか見たら女性のことが好きになるんじゃないか。」そんな淡い気期待を抱いてみても、自分に対する嫌悪感がさらに深まっただけでした。
ネットで、「ゲイ 治る」と調べてみても、期待とは反対の答えが返ってきて絶望しました。
「なんで、こんなに苦しまないといけないのだろう。」ずっと苦しんでいまいた。
(原文ママ)ゲイであることを受け入れれた理由 より
(・・・)学年が進みにつれて、どうやら、自分の気持ちはその「ホモ」であるということがわかってきた。そしてそれは「同性愛」であるということも。
そして、決して誰にも言えない秘密を抱えてしまった、と一人悩んだ。
『ボクの彼氏はどこにいる?』(52)より
僕がゲイであることを考え出したのは、中学二年生のころでした。でも、僕はその時とっても悩んでいました。「これは思春期にありがちな同性への憧れであり、僕はきっと女性が好きなんだ。そうに違いない」と。でも、僕はこの頃、同級生に「オカマ」っていじめられたこともあったから、「ああ、きっと同性を好きになるのは間違いなんだ」と思っていた。
その気持ちは、高校生になっても強くなるばかり。同性を好きになってはいけないと思うほど、心が反対の方向へ向かってしまう。(・・・)
『カミングアウト・レターズ』(34)より
あなたは、独りではありません。必ず、仲間がいます。
いつか考え方は変わる
中高の頃、僕はゲイであることに強く引け目を感じていました。
「ゲイ 治る」や「ゲイ 一過性」と検索したり。
女性に欲情しようとしたり。なんとかじぶんをごまかそうとしたり。
そのようにさせてくる社会を、恨みすらしました。
しかし、高校時代にある先生にカミングアウトしたとき、こう言われました。
「時間が経てば、もしかすると今と違う考え方になっているかもしれないね」
実際、少しずつですが変わりました。
悩み、人と会い、読み、そして悩む、という遠回りの末に。
遠回りをするのは無駄じゃない
遠回りは絶対に無駄ではありませんでした。
このひとつの壮大な遠回りのおかげで、僕はより器の大きな人間、視野の広い人間になれたんじゃないかと思います。「異性愛者バージョンの僕」よりも、きっと。もし僕が異性愛者であったのなら、こんな壮大な遠回りはしなかったはずですから。
それはきっと、あなたも同じだと思います。
あなたの「秘密」を受け止めてくれる人は必ずいる
この世界には必ず、必ずや、あなたの「秘密」を受け止めてくれる人がいます。
「ゲイであることは、死ぬまでの秘密にしよう」中学3年の僕は、そう自分に誓っていました。もしかすると君も、「ゲイは一生の秘密だ」と考えているかもしれません。
ですが、そんなふうに「秘密」にするのは僕には苦しくて、難しくて、無理でした。だから、僕は信頼している人にカミングアウトしていきました。そうして何度も受け入れられてきました。
安心してください。
この世界には必ず、必ずや、あなたの「秘密」を受け止めてくれる人がいます。
まずは「頭で」自分を受け入れる
自分がゲイであることを「感情的に」受け入れることは、最初はなかなか難しいでしょう
(僕はそうだった)。そこで、まずは「頭で」=「理論的に」自分がゲイであることを肯定してみましょう。
5つの大事な概念・考え方を知る
「知っておきたい概念・考え方」を5つピックアップしたので、軽く解説します。
性的指向
性的指向とは、「ある個人の恋愛感情や性的欲求がどこに(どの性別に)向かうか」を指す概念です。たとえば、「ゲイの人の性的指向は男に向く」「ストレートの人は性的指向が異性に向く」というふうに使います。
※より深く知りたい方は、外部サイトですがこちらを参照してください。
>>>性的指向とは?変わることもあるって本当?(外部サイト)
同性愛嫌悪(ホモフォビア)
同性愛嫌悪とは、文字通り「同性愛に対する嫌悪(フォビア)や偏見」のことです。
内なる/内面化された同性愛嫌悪
内なる/内面化された同性愛嫌悪とは、「同性愛嫌悪的な嘘や、ステレオタイプや、風説が本当だと、同性愛者自身が信じること」です。ゲイの人も同性愛嫌悪を抱くことがあるのです(僕もそうだった)。
たとえ周りがあなたを受け入れたとしても、内なる同性愛嫌悪のせいで、
- 自分がゲイであることを疎ましく感じる
- 他のゲイの人やLGBTの人にも、嫌悪・偏見をぶつける
といったことになりかねません。
異性愛規範(ヘテロノーマティビティ)
ヘテロノーマティビティとは、「トランスジェンダーでない人々によって営まれる「普通」の異性愛をこの社会において正しいものとし、その他の性のあり方は間違っていると考える思想」です(『LGBTを読みとく: クィア・スタディーズ入門』P.148より)
要するに、「異性愛以外はおかしい」ということになります。
これによって、たとえばあらゆる娯楽作品では「異性愛」がメインに扱われて、その他はほとんど出さない、ということが起こったり(といっても、最近は改善してますが)、結婚は「異性間」でしかできない、ということになったりするのです。
「LGBT・ゲイは生物学的に間違っている」は間違い
この考え方はまだまだ根強いですし、僕自身もこう思っていた時がありました。
しかしこの主張、実際はけっこうおかしいんです。
要点を話すと、生物学は「目の前の生物について、ありのままを観察・研究する学問」であって、「どんな生物が正しくて、どんな生物が間違いなのか」は判定しません。
ほかにも、外部サイトですが、こちらで詳細に反論しています。
>>>LGBTは生物学的にまちがっている?【東大生が反論してみた】
改めてまとめます。「5つの大事な概念・考え方」は次のようになります。
これらを念頭に自他の感情を考えてみると、じぶんを「頭で」受け入れる素地ができるのではないかと思います。
本や論文を読んでみる
概念や考え方を偉そうに紹介しましたが、これらは本や論文に全部書かれています。
そこで、僕の方でいくつかおすすめの本や論文を紹介します。
日本における同性愛に対する寛容性の拡大 : 「世界価値観調査」から探るメカニズム
実際のデータを使いながら、同性愛への寛容性が人々の間でどうなっているかを見た論文。
もし同性愛への(非)寛容性についての傾向を知りたければ、良いかもしれません。
性的違和を抱える高校生の自己形成過程 : 学校文化の持つジェンダー規範・同性愛嫌悪再生産の視点から
同性愛の高校生へのインタビューを通して、高等学校における彼らの性的自己形成過程の一端を検討した論文。実際に当事者が出てくるのが好きです。
同性愛者の権利が、いかにして日本で扱われてきたかが書かれています。
第4章「ホモフォビアと異性愛主義」も大切だと思います。
ゲイにとどまらず、LGBT・クィアについての研究にも入門できる本です。イチオシ。
「心で」自分を受け入れる
「頭で」自分を受け入れる準備ができたら、一緒に「心で」自分を受け入れていきましょう。僕が思うに、「心で」自分を受け入れるには、
- 娯楽作品で、同じゲイの人を見る
- 実世界で、ほかのゲイの人と交流する
- 自分のセクシュアリティを、他の人に認めてもらう(受け入れてもらう)
という3つが重要になってきます。
ゲイの人が登場する作品を楽しむ
「心で」自分を受け入れたいときに役立つのが、やっぱりエンタメ。
ゲイの人が楽しそうに恋愛したり、ふつうに暮らしている作品はやっぱり落ち着くものです。そこで、僕が実際に読んだり観たりした作品からいくつかピックアップしてみます。
小説・エッセイ
言わずとしれた名著にして快著。
中学生の頃の僕のバイブルでした。
これを、中学生・高校生の頃に読みたかった!
>>>『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』のあらすじなど
これも中学生・高校生の頃に読みたかった!!!
>>>『サイモンvs人類平等化計画』のあらすじなど

漫画
とにかく素晴らしい漫画。
あまりにも良すぎるので、別の記事で徹底解説しています。
>>>次世代青春マンガ『青のフラッグ』の魅力を徹底解説してみた。【ゲイは読むべし】
ゲイで悩んでいる高校生が主人公。ゲイにとどまらず、他のセクシュアリティの人も出てくるのが特徴。主人公がすこしずつ成長していく良漫画です。
他にも良いBLはたくさんあるのですが、それはまたの機会ということで……(笑)
映画
ダントツでイチオシ。
素晴らしすぎたので、やっぱり魅力を徹底解説しました。
>>>ゲイラブコメ映画『Love,サイモン』が最高すぎた【全ゲイ観るべし】
主人公はゲイの大学生。カミングアウトや恋愛に悩む様が描かれています。
悩んでいた頃に観て、めちゃくちゃ共感したのを覚えています。
短いですが、すごく良い映画です。最後の最後で、僕は泣かざるを得ませんでした。
短編映画なのに、何度も上映期間が延長されていた名映画です。
>>>あなたは映画『カランコエの花』を観たことがあるか?
ポッドキャスト
一部のゲイの人たちが、ポッドキャスト(ネットラジオ的なもの)を配信しています。「あ、他のゲイの人もこんなふうに生きているんだな」と感じられるんじゃないかと思っています。
ちなみに、全くステルスしていないマーケティングですが、僕・づんた(絵師)も「崖の上のゲイ」というポッドキャストをやっています。1回20分で聴けるので、ぜひどうぞ。
ほかのゲイの人と交流する
ほかのゲイの人と会うのは、誰もが最初は緊張するものだと思います。
ですが、勇気を出して一歩を踏み出してみると、見える世界は広がるはずです。
今までゲイの仲間がいなかった人にとって、自分と同じ悩みや属性をもっている人との交流は貴重だと思います。
ここでは、ほかのゲイの人と交流する方法とおすすめ度を示しました。
おすすめ度の基準は、「1人で行ってもやっていけるかどうか」です。
ご参考までに。
友達作りのイベント
おそらくもっともハードルが低い方法です(開催される場所のあたりじゃないとダメですが)。僕自身、これが他のゲイの人と交流したはじめての場でした。
東京近辺だと「ピアフレンズ」が最も有名でメジャーだと思います。
僕もこれに参加して、同い年のゲイの友人ができて世界が広がりました。
ちなみに2019年現在、顧問は『ボクの彼氏はどこにいる』の著者である石川大我・豊島区議会議員です。
LGBT・ゲイサークル
こちらも結構おすすめです。「コミュニティ」として仲良くなったり、人間関係を作れるのはとても大きいですね。
東京近辺だと早稲田大学の「GLOW」が最大級の規模。インカレサークルで、専門学校・短大・大学・大学院のセクマイなら誰でも入れます。
2019年現在、僕自身GLOWに入っていて、「あー、1年の頃から入っていてよかった〜」と思っています。
>>>LGBT(セクマイ)サークルとは? 選ぶ・入るときのステップ4つ!
>>>LGBTサークルに入るメリット・デメリット6選【まとめ】
ツイッター
言わずと知れたツイッター。「ゲイ垢」を作って、「表向きのリア垢」とは別でツイートをしたりするのが(僕の世代だと)一般的。
「#lgbtさんと繋がりたい」「#lgbtと繋がりたい」系のハッシュタグで、他のLGBTの人と交流することも可能でしょう。
ツイッター上でやり取りするだけなら割と簡単にできるかも……ただ、ある程度は個人行動になるので、「コミュニティ」的側面はちょっと弱いかも。
ちなみに僕のツイッターはこちら → @minna_subaru
交流スペース(コミュニティセンター)
LGBTの人が安心して集まれる場所として、交流スペースやセンターがあるところもあります。たまに自治体も設けていたりするので、ぜひ検索してみてください。
難点は、1人で行くとちょっとやりづらい可能性があることです。コミュニケーションが得意な人は大丈夫だと思います。
関東だとメジャーどころは「aktaコミュニティセンター」(新宿二丁目)と「SHIP」(横浜)でしょう。
ゲイアプリ
ゲイ向けの出会いアプリはかなり充実しています。
「あ、周りにこんなにたくさんゲイの人がいるんだ〜」と思える反面、アプリでの行動は個人単位になるので、コミュニティがない状態だとどうしても心細いかも。また、中学生・高校生は使えないので注意。
他にゲイの友達がいて、アプリについて教えてくれる人がいれると心強いですね。
ちなみにもっともメジャーなゲイアプリは「9monsters」と呼ばれるものです。

ゲイバー
ゲイといえば二丁目のゲイバー、というイメージがあります。
これは僕が人見知りなのもあるのですが、いきなりゲイバーに飛び込んで行けるのは相当すごいと思います。コミュニケーションに自信があれば、単身乗り込んでも楽しめるかもしれませんね。
他の人に受け入れられる(カミングアウト)
※この部分は、アメリカのLGBT団体「Human Rights Campaign」が出している「Resource Guide to Coming Out」を参考にしつつ、僕自身の経験に基づいて書いたものです。
「ゲイじゃない人」にも自分のセクシュアリティを受け入れてもらいたい、と思うこともあるでしょう。つまり「カミングアウトしたい」と思うことがあるかもしれません。
>>>ぼくのカミングアウトのコツ3選
>>>カミングアウトは「エゴの押しつけ」か?
カミングアウトに関しての注意
- カミングアウトは義務ではない
- カミングアウトに「正しいやり方」はない
- 誰に、どのタイミングでカミングアウトするのかを決めるのは、あなたの権利
- 誰かにカミングアウトしたからといって、他の人にも教えなきゃいけないわけではない
- カミングアウトをするにあたって、不安や混乱を感じるのは普通のこと(感じないこともあるでしょう)
カミングアウトの準備
いきなりカミングアウトしてしまう前に、次のことを検討しておくと賢明だと思います。
- 相手は、LGBT関連の話題にどのような反応を示す?
- 普段から否定的な反応の場合は、その人に受け入れてもらえない可能性があるので要注意。
- あなた自身は、LGBT関連の話題をどれくらい知っている?
- カミングアウトした相手が、もしかすると偏見や無知にもとづいた発言をするかもしれません(例:トランスジェンダーとゲイの混同)。そのときに、きちんと説明できたほうが誤解は少ないでしょう。
- どういうことを伝えたいのかは、自分の中で整理できている?
- どんなふうに伝える?
- 明るく伝えるのか、改まった調子で伝えるのか(経験上、こっちが軽い感じで伝えると、相手もそこまでおおげさにとらえない気がしました。場合によると思いますが……)
- サポートしてくれる人は誰かいる?
- 他のゲイ・セクマイの仲間や、すでにカミングアウトして受け入れてくれた人など
- タイミングは適切?
- 相手が受け止めきれていないとき、我慢できる?
- 自分が何ヶ月・何年も悩んできたものを、相手に一瞬で理解してもらうのはすこし難しいことがあります。そのときに、相手にも時間を与える必要があるかもしれません。
カミングアウトに関する本
おわりに
長い長い「じぶん入門ガイド」も、これにて終わりです。お疲れ様でした。
きっと遠くない将来、このガイドが必要のない社会が来るんじゃないかと思っています(願っています)。
もしこのガイドがあなたの役に立ったのなら、とても嬉しいです。自分がゲイであることに苦しんで悩んだ方は、ぜひほかの属性で悩み苦しんでいる人のことも受け入れられるような人になってください!(自戒)
お読みくださり、ありがとうございました!!
参考文献・紹介した本のまとめ
Resource Guide to Coming Out | Human Rights Campaign
日本における同性愛に対する寛容性の拡大 : 「世界価値観調査」から探るメカニズム
性的違和を抱える高校生の自己形成過程 : 学校文化の持つジェンダー規範・同性愛嫌悪再生産の視点から