ゲイ・ジェンダー

【廃刊】ゲイ東大生が『新潮45』10月号を読んでみた結果【感想】

※この記事では、『新潮45』10月号の特別企画【そんなにおかしいか「杉田水脈」論文】をみんなすばるが読んだ感想を紹介します。

 

『新潮45』10月号の特別企画【そんなにおかしいか「杉田水脈」論文】が世間を賑わせてから、はや1ヶ月半。

実はぼく、出遅れた野次馬根性を働かせて、10月上旬にメルカリで『新潮45』10月号をポチっていたのです。

 

約2000円でな!!!!

 

雑誌に2000円……。

しかし今や時流に乗り遅れ、世間のほとぼりも冷めたかのように見えます。それなのに、いまさら『新潮45』10月号の感想を投稿するわけです。

もうぼくは馬鹿です。大馬鹿です。

とはいえ。

ブログへのリクエストで、こんなありがたい声をいただきました。

(・・・)それぞれの論客の主張に対して文句を言うわけではなく、ただ純粋に10月号の内容が気になりまして。
以前、すばるさんのTwitterで、「新潮45」10月号を手に入れた旨が掲載されていたので、もしよろしければ、10月号の所感をブログにしていただけたらうれしいです。

だからぼくは、重い腰を上げて書きました。『新潮45』10月号を、2000円の気持ちを込めて読みました。丁重に。

そういうわけで今回は、『新潮45』10月号の【そんなにおかしいか「杉田水脈」論文】特別企画を読んだ、周回遅れ気味の感想です。

また、特別企画がどのような文脈で出現したのか簡単に説明します。もしすでに知っている場合は、読み飛ばしてください。

※「特別企画の文脈→各文章の内容説明と感想→総評」という形で行きます。

 

文脈1:「『LGBT』支援の度が過ぎる」by杉田水脈議員

すべての始まりは、『新潮45』8月号に載った「『LGBT』支援の度が過ぎる」(杉田水脈議員)という文章でした。とくに、次の部分が強く批判されました。

(・・・)例えば、子育て支援や子供ができないカップルへの不妊治療に税金を使うというのであれば、少子化対策のためにお金を使うという大義名分があります。しかし、LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり「生産性」がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか。(・・・)

(「『LGBT』支援の度が過ぎる」『新潮45』8月号収録より、太字は引用者)

このように「生産性」(子どもを作るか作らないか)を基準に税金を使うべきか否か決める考え方には、批判的な意見が多数ありました。

そうしてついに、自民党本部前で抗議活動が起こる事態にまでなりました。

 

文脈2:「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」へ

この大炎上を受けて、『新潮45』10月号では「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」という特別企画が掲載されました。

この特別企画の序文は次のようなものでした。

8月号の特集「日本を不幸にする『朝日新聞』」の中の一本、杉田水脈氏の「『LGBT』支援の度が過ぎる」が、見当外れの大バッシングに見舞われた。主要メディアは戦時下さながらに杉田攻撃一色に染まり、そこには冷静さのカケラもなかった。あの記事をどう読むべきなのか。LGBT当事者の声も含め、真っ当な議論のきっかけとなる論考をお届けする。

(『新潮45』10月号、76ページより)

この特別企画のなかでとりわけ批判されたのが、小川榮太郎さんの「政治は『生きづらさ』という主観を救えない」でした。

これを受けてか、新潮社は『新潮45』を事実上廃刊に。

つまり、「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」は、雑誌をひとつ終わらせるほどのぱわ〜をもった特別企画だったのです……。

……。

それではここからは、パワー()あふれる特別企画に掲載された7本の文章を感想つきで紹介します。

 

① LGBTと「生産性」の意味(藤岡信勝)

内容

  1. 杉田さんが言いたかったのは、「税金を使う少子化対策費という枠に照らすと、LGBTの人たちは『生産性』がないから投入するべきじゃない」ということ。
  2. 竹内久美子さん「LGBTにも生産性がある」と主張したけれど、実際は「同性愛者自身に生産性がある」というわけじゃないよね、ということ。
  3. 社会科学の文脈に照らすと、杉田さんの「生産性」という語用もおかしくない
    (その無機質な響きを言葉狩りに利用されるかもしれないけど)
  4. 「同性婚を認めろ」という立場は、論理的には婚姻制度の撤廃に行きつく。
    同性婚を認める
    →ほかの無数の性的嗜好の結婚も認めなければいけなくなる
    →最終解決として、婚姻制度が撤廃される
  5. しかし、婚姻制度は「次世代の再生産=社会の存立の根幹」という機能をもっている。
  6. だから、同性婚も認めてはダメ。

 

感想

この文章の言わんとしていることは大体わかったつもりです。

内容②「同性愛者自身には生産性なくない?」という指摘はごもっともだなと思います(そもそも生産性があるかないかの論争は意味がない、というのがぼくのスタンスですが……)。

また、「社会の存続」マクロな心配も「確かになあ」と思ったりもしました。

ただ、ひっかかる点が2つあったんですよね。

ひっかかり① 少子化対策費の枠でLGBTを支援……?

杉田氏が書いたのは、①税金投入という公的資金を投入するかどうかという社会的決定の文脈の中で、②公的資金を少子化対策費の枠で支出するかどうかの妥当性に関して判断する基準として、③LGBTの人たちについて、「彼ら彼女らは子どもを作らない、つまり生産性がない」と位置づけられる、というだけのことだ。

(『新潮45』10月号、79ページより)

このように、藤岡さんは「公的資金を少子化対策費の枠で支出するかどうかの妥当性」と言っているのですが、杉田さんがもとの文で書いているのは少子化対策費の枠での話ではありません。したがって、②は削除した上で杉田さんの論文は理解するべきだと思います。

一応、もとの杉田論文の該当箇所を掲げます。

(・・・)例えば、子育て支援や子供ができないカップルへの不妊治療に税金を使うというのであれば、少子化対策のためにお金を使うという大義名分があります。しかし、LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり「生産性」がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか。(・・・)

「『LGBT』支援の度が過ぎる」(『新潮45』8月号収録)より

このように、杉田さんは「少子化対策費の枠で支出するかどうかの妥当性」の話はしていないように思います。少なくともぼくの読む限りでは。

 

ひっかかり② 滑り坂論法

ひっかかったのは、後半の④〜⑥「同性婚を認めると、ほかの結婚の形も認めなくちゃいけなくなる。だから、同性婚も認めちゃダメだ(異性婚こそ社会の存立の根幹だから)」という議論。いわゆる、滑り坂論法・ドミノ理論です。

これについては、

  • え、動物やモノと結婚したって人の勝手じゃない……?
  • どうせその人達は、現状だって子どもを生まないし……。
  • だったら結婚を拡充したってそこまで問題なくね……?
  • (まさか、無理やり結婚させて子ども生ませるの……!?)

という感想をもちました★

ゲイだけど、同性婚にちょっぴり反対するわけ。 車のない夜中でも横断歩道の赤信号を守る系の人間です。みんなすばるです。 今回は、ぼくが同性婚にちょっぴり反対している、という話...

② 政治は「生きづらさ」という主観を救えない(小川榮太郎)

内容

  • 性的嗜好(同性愛含む)は、プライベートなもの。公で語るべきではない。
  • 新聞などは、「弱者」に媚を売り過ぎ。
  • LGBTという概念は、きっとポストマルクス主義の変種のはずだ。
  • 人間の性には、オスとメスしかない。
  • 社会は性の概念を曖昧にするべきではない。
  • 結婚とは、異性間のみのもの。
  • 私的な領域は、個人とその延長の共同体が救う。
  • 政治が担うべきなのは、人生の前提条件を不当な暴力から守ること。

 

感想

特別企画の中では、この文章がもっとも炎上してましたね!(笑)

よく言えば「正統派」な主張、悪く言えば昔からある議論だったという印象です。
内容自体はたぶん1980年代(もしかしたらもっと前?)のアメリカあたりですでに出ていた議論の焼き直し(?)なんじゃないかと思います。

でも逆に、リバイバルするほど説得力のある主張なのだ、とも言えますね。

この文章の根幹となる主張は、次のようなものです。

同性愛は、性的嗜好

性的嗜好は、私的なもの(隠しておくべき)

だから、同性愛は私的なもの(隠しておくべき)

かなり「古典的」な論法です。

ちなみにこの論法に対しては、いくつかの応答が可能です。

  1. 同性愛は性的”指向”であって、性的”嗜好”じゃない
  2. 同性愛は性的嗜好かもしれないけど、それは異性愛もそうだよ。
    それなのにどうして、異性愛だけ「公的」な扱いを受けるの?

結局どちらも「自然で至上の性のあり方は、異性愛だけだ」という考え方を相対化します。その裏にある考え方にはちょっと違いがありますが(ちなみにぼくは②推し)。

※「性的指向」と「性的嗜好」に関する揉め事は別の記事で書いてみます。

もし小川さんがLGBTの概念(性的指向・性自認・性表現など)を知って「異性愛は別に特別じゃないんだ」とわかってくれれば、けっこうわかりあえそうなものだけどなあ、と思いました。

というわけで、小川さんの主張は、ある意味「正統派」なものだったのでした。

 

③ 特権ではなく「フェアな社会」を求む(松岡大悟)

内容

  • 確かに、杉田議員に「正しい知識」があるかは微妙
  • けれど、杉田議員をバッシングしてもLGBTへの理解は深まらないから疑問を感じている
  • 「生産性」発言は、たしかに優生思想。でも、それは今の社会だってそうである
    例)出生前診断でダウン症だとわかった胎児は、96%中絶される
  • LGBT側も、人権の線引きを行ってきた
    例)国際レズビアン・ゲイ協会は、国連に加盟させてもらうために米国少年愛団体を切り捨てた
  • 多くのLGBTは保守
  • 野党の「LGBT差別解消法案」はよくない
    例)人の内面に踏み込んで罰則を与えうる条文になっている
  • 自民党の「理解増進法」のほうがよい
  • アメリカでは、保革の壁を乗り越える方策がいくつも行われている
  • LGBT当事者は、「LGBT特権」ではなく「フェアな社会」を望む。
    (制度は生きづらさを解消しないが、国民の一員という承認はもたらす)

 

感想

松浦さんのこの文章は、特別企画の中で一番穏便な立場だったのかなと思います(次点でKAZUYAさん)。

とはいえ、多少のひっかかりもありました。でもそのひっかかりのほとんどは「新潮45」で高評価だった「松浦大悟論文」をファクトチェックしてみたで網羅されているので、ここではただ箇条書きで済ませます。

  • 「今の社会だって優生思想が多分にあるじゃん」という指摘は正しいと思う。しかし、だからといって「杉田さんを責められないよね」とはならないはず。「杉田さんはもちろん、今の社会がもつ優生思想も責められるべき」という方向のほうが正しいと思った。
  • LGBTはたぶん、そんなに保守ではない(これは、LGBTであるかではなく、年齢や立場などの影響のほうが強そうだから一概には言えないけど)。
  • 「LGBTは強い国を作る」論は、ホモナショナリズム*一直線でちょっと怖い

*ここでは、「LGBTを認めてくれたお国のために仕えなきゃ!」程度の意味合いで使ってます。ほんとうはちょっと違うけど。

 

④ 騒動の火付け役「尾辻かな子」の欺瞞(かずと)

内容

  • LGBには税金投入の必要がない。Tの問題だけ。それをLGBTの問題として扱うのはおかしい
  • 尾辻さんは、LGBT差別禁止法に関する利権があるから成立を急いでいるのでは?
  • 今回の騒動の原因は、尾辻さんが杉田議員と話し合わず一方的にツイッターで拡散したからだ

 

感想

尾辻さんが悪く、杉田議員は正しいというスタンスの文章でした。

尾辻さんがLGBT差別禁止法に関わる利権をもっているらしいという指摘は、なるほどなあと思いました(ファクトチェックはしてませんが)。

ただ、一応企画名が「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」である以上、個人的には杉田論文をどういう理由で支持/正当だと言うのか知りたかったです。

「LGBTには税金を投入する必要がない」ことを前提にして尾辻さん批判に終始していたので、なかなか理論的な正当化の構造は見えませんでした(汗)

 

⑤ 杉田議員を脅威とする「偽リベラル」の反発(八幡和郎)

内容

  • 杉田論文への「メディア・リンチ」があった
  • 杉田議員の経歴概略
  • 杉田議員を高く評価する理由(現場主義・柔軟性)
  • 杉田議員への批判を紹介。生煮えの論点提示でも良いのでは、と主張
  • 杉田議員に反発する層の分析(「偽リベラル」・利権・反安倍など)

 

感想

基本的に杉田議員の文章自体はあまり擁護しない立場っぽかったです。

また、杉田議員がいかに素晴らしい人材であるか、彼女がいかに一部の層にとって脅威であるかが説明されて、なるほどなあ、そういう捉え方もあるか〜、と思いました。

ぼく自身は、杉田論文を八幡さんがどう理解したのか知りたかったです。八幡さんはおそらく杉田論文に批判的な立場なので、どういう点がまずいのかをもっと詳しく聞きたいな、と思いました。

 

⑥ 寛容さを求める不寛容な人々(KAZUYA)

内容

  • 杉田議員が、どういうことを言いたかったのか。
    • 子育て支援などは、少子化対策という大義名分で税金を投入できる。でも、LGBTカップルに税金を使うのは微妙で、その文脈で「生産性」と言っただけ
  • 「生産性」は余計だったが、そこだけ取り上げて批判するのも過剰
  • 今回の騒動のせいで、LGBTが腫れ物扱いされてしまうことへの懸念
  • 寛容を求める側が、杉田議員を徹底的に潰そうとするのは不寛容だ

 

感想

杉田議員の文章で「生産性」がどういう意図で使われたのかを一番うまく説明していた気がします。

また、腫れ物扱いされることへの懸念や、寛容を求める側の不寛容という論点はたしかに重要だろうなあと思います(それらは杉田論文の内容の正否とは直接関係するわけじゃないですが)。

ただ、この特別企画の名前が「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」であるからには、LGBTに税金を投入するべきではない/行政が「支援」するべきか否かについて、KAZUYAさんはどう判断するのか聞いてみたかったです。それが杉田論文の1つの趣旨だったと思うので。

 

⑦ 「凶悪殺人犯」扱いしたNHKの「人格攻撃」(潮匡人)

内容

  • NHKは杉田議員を「相模原障害者施設殺傷事件」の犯人と同一視するような報道の仕方をした
  • それはよくない。
  • NHKこそ、悪だ。

 

感想

NHKへの批判で一貫していました。

この人、めっちゃNHK嫌いじゃんと思いました(小並感)。

あと、この特別企画の名前が「そんなにおかしいか(ry

 

総評

所感としては、

  • ただのヘイトだろ」という文章はそんなになかったかも。
  • この人、知識不足なのかな……?」という文章はあった。
  • 「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」という企画名だけど、杉田論文自体を擁護する文章は意外と少なかった

こんなところでしょうか。ぼくの主観ですが。

まあ、というわけで周回遅れの『新潮45』10月号感想でした〜。

ぜひあなたも、『新潮45』10月号をその目で確かめてみてはいかがでしょうか()
今なら価格、落ち着いてますよ()

というわけで以上、みんなすばるでした。

 

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