ゲイ・ジェンダー

映画『his』はゲイに希望を与える作品だった【感想】

映画『his』を公開初日に観た。

結論から言うと、めっちゃ良かった。

映画『his』って?

かつて恋人同士だった男性2人の、8年ぶりの再会を描いた物語。突然娘を連れて現れた渚を迅がどう受け入れるのかという恋愛ストーリーを軸に、セクシュアルマイノリティーの人々と古くから根付いている共同体の共存への希望、親権を争う法廷劇、変化しつつある家族の形、そしてシングルマザーが直面する過酷な現状などが描かれる。マイノリティーだからと何かを諦めて生きてきた迅と渚が、そして彼らに関わった人たちが、それぞれに境界線を越えていく人間ドラマ。

「同性愛を描く映画」と言うと「男女じゃだめなの?」と聞かれたことも | かがみよかがみ より

 

「ゲイ」は関係ない

この映画を作った人たちにとって、ゲイであることは何も「特別なこと」じゃないんだと思わせられた。

たとえば、開幕から主人公たちのベッド(後)シーンがある。渚(なぎさ)が迅(しゅん)に甘えてスキンシップを取り、体を交える描写もなされている。そこには2人の関係性を丁寧に描こうとする執念というか、心意気を強く感じた。

それと同時に、「マイノリティ=善・マジョリティ=悪」みたいな単純な構図にしていないのも良かった。ゲイの渚は(何も事情を知らないと)完全にのらくら野郎だし、渚の妻・玲奈(れな)も被害者だった。

そういう意味で、ゲイの人への平面的な理解を超越した作品だった。

 

「ゲイ」は関係ある

同時に、ゲイの人が直面するであろう困難や葛藤もきちんと(前日譚ドラマと同様に)描かれていた。

ゲイなんじゃないかと問い詰められ、否定したとしてもゲイの人への否定的な物言いを聞く羽目になる飲み会の場。裁判のためとは言え、同性愛への世間的な価値観をぶつけられる残酷さ。

この作品は、「ゲイでも、レズビアンでも、愛は愛だよ!」とかんたんには片づけられない現実をも射程にとらえていた。

 

前日譚ドラマを観た人にも嬉しい

僕は前日譚ドラマ『his 〜恋するつもりなんてなかった〜』も観たのだが、そのおかげでこの映画をいっそう楽しめた。「渚と迅は、あのドラマ・その後・そしてこの映画に至るまで、どんな思い出を共有し、別れ、そして再会したのだろう」と思いを馳せ、胸が苦しくなったりした。

前日譚ドラマで使われたピアノのBGMも続投しており、涙が出そうになった。

前日譚ドラマを観た人は、いっそう楽しめる作りになっていた(観ていなくても、映画のストーリーはぜんぜん追える)。

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その他、雑感

絶妙に笑わせてくるシーンがいくつかあった。

  • あの、間のいいような、間の悪いような笑いはなんなんだろう?(笑)
  • 悪人がいなくて、しかしだからこそみんな不幸になっていく、というのは『愛がなんだ』と似たものを感じた。
  • この監督さんの食事シーンには、いつも強いこだわりを感じる。『愛がなんだ』でも前日譚ドラマでもそうだったが、食事の音や間を大切にしているんだな〜、と。
  • 渚の妻・玲奈が裁判パートで責められていたときに、一番胸が苦しくなった。これは観て体感してほしい。
  • 前日譚ドラマと本映画の間のストーリーもめっちゃ見たい。今作で演じていた宮沢氷魚さん・藤原季節さんはもちろん、草川直弥さん・倉悠貴さんの演じる迅・渚もまた観たい(T_T)

 

おわりに

脚本家のアサダアツシさんは、ゲイの仕事仲間にこう言われたという。

自分たちゲイが高校時代に見たかった、『恋愛っていいな』と思えるドラマをいつか書いてよ

僕は、今の高校生がうらやましい。
こんな作品を青春時代に観ることができるのだから。

 

【ネタバレ注意】最後のシーンの感想

最後のシーンでいちばん感動した。

空が自転車をこぐのを、渚・迅・玲奈が見守るシーン。玲奈が迅に「私、自転車乗れないんだよね」と打ち明けたり、空が転んでしまうところに渚・迅・玲奈が思わず駆け寄っていくなど、大事な場面が詰まっていた。

あまりに出来すぎていた。しかし、空が転んだことも、そこから生まれたセリフも、すべて偶然だったらしい。つまり、出来すぎていなかったからこそ、あまりに完成されていたのだった。

空に駆け寄る3人、そして空の高らかな「強いぞー!」という言葉。

この映画は、ゲイの2人の物語であると同時に、「守るべきもの」がある人達のひたむきな強さを描いた作品だった。

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